本の後半では、ソープは数学ではなく異なる戦略と複利で資産を増やしていくバフェットをたたえながらも、バフェットでさえも、インデックスに勝てなくなっていることを指摘しています。近年の金融市場はコンピュータ化が異常な速度で進んでおり、さらに2012年以降の機械学習の劇的な発展が金融市場にさらなる進化を迫り、機械が市場の操縦桿を完全に握るようになりました。機械学習モデルベースのパッシブ投資が主流となったことが、長期的な明確なバブル崩壊から景気後退に向かう時期を市場から取り去られた理由とする議論が存在するほどです。
短期的なアービトラージ戦略も同様に進化しており、バフェットがかつて見つけることのできた市場の淀みは、いまやもののミリ数秒で、アルゴリズミックトレーダーが活用しており、それとは別に高頻度取引(HFT)業者は、取引の速度で極小のスプレッドを稼ぐことで、リスクを負わずして稼いでいます。HFT業者は、『フラッシュ・ボーイズ 10億分の1秒の男たち』で登場するような、取引所のサーバーに直通する光ファイバーケーブルに頼らず、将来、惑星間通信に応用されそうなもっと高速なマイクロ波によるデータ転送を利用するようになりました。欧米の証券取引所では、スピードバンプを用いた意図的に遅い市場メカニズムや、DPO(Discretionary Pegged Order)という執行価格に関して取引所が一定の裁量を有する注文タイプが提案され、実用化されています。
Source: エド・ソープ 市場とカジノを制覇したクオンツの開拓者