「バフェット流」は限界か グローバル・ビジネス・コメンテーター ラナ・フォルーハー

米投資会社バークシャー・ハザウェイが2日に開いた株主総会で、同社を率いる著名投資家ウォーレン・バフェット氏は自らの言葉と行動が矛盾するのを無理に一致させているかのようだった。「オマハの賢人」と称される同氏はこれまで通りに個人投資家にとって最良の投資先はS&P500連動型インデックスファンドだと強調した。だが一方で、米航空株を全て手放すなど4月の株式売却額が購入額の16倍に上ったと明かし、「今後も米国経済に期待してよいが、どう期待するかよく考える必要がある」と語った。

同氏の行動を注視する限り、これまで貫いてきた二大投資戦略は変えていない。1つ目は企業の財務を徹底的に分析して割安銘柄を買い、値上がり後に売却するバリュー投資。2つ目はブランド力を持ち、海外で事業を拡大できる米企業に投資することだ。こうした戦略は市場や実体経済がどこへ向かうのかを知りたい投資家にも役立つはずだ。

バフェット氏は米コロンビア・ビジネス・スクールでデビッド・ドッド、ベンジャミン・グレアム両教授からバリュー投資の技法を学び、バリュー投資の効用を説いたグレアム氏の著書「賢明なる投資家」を愛読した。両教授は利益が安定し、PER(株価収益率)が低く、負債がほとんどない企業にこそ投資すべきだと主張している。

この理論に従えば、バフェット氏が今、株式購入にあまり積極的でないのもうなずける。同氏が株式を大量に買い進めた2008年の金融危機後から19年末までの間に、全世界の社債発行残高は2倍に膨れ上がったからだ。

同時に、主に米連邦準備理事会(FRB)の量的緩和による市場介入が米株価を支えるようになり、PERは投資の判断材料として役立たなくなった。新型コロナウイルスの影響による歴史的な経済悪化により業績見通しを未定とした企業も多い。

FRBの姿勢次第で投資を判断すればいいと言う人もいるだろう。つまり、株価は企業業績に連動するというより、中央銀行の資金供給量で決まるようになったというわけだ。

確かに、香港の金融調査会社ギャブカル・リサーチの創業パートナー、シャルル・ギャブ氏が先週指摘した通り、日本でも1980年代には東証株価指数TOPIX)と日本銀行による資金供給の相関関係が永遠に続くと考えられていた。ところが90年になると株価は資金供給量を追わなくなった。

新型コロナ危機が過ぎ去り、FRB量的緩和を終了した後でも、株価を高める企業は続出するだろう。とはいえ、投資家は勝ち馬を見極めるための新たな分析手法が必要になる。

イラスト Matt Kenyon/Financial Times

イラスト Matt Kenyon/Financial Times

バフェット氏は世界経済の成長に期待して米国の優良企業に投資することを2つ目の投資戦略に挙げたが、こちらも自国主義が進む今の時代には通用しない。S&P500銘柄の中で巨額の時価総額を誇るIT(情報技術)企業など、米国や中国、欧州各国は世界に冠たる自国企業を育てようとしている。脱グローバル化が長期的にどうなるのかは予測できないが、短期的には競争が激化し、米企業の株価を間違いなく押し下げていくはずだ。

旅行関連の業界が早期に立ち直る見込みは薄いとしても、投資先として比較的安全な業種はありそうだ。著名債券投資家のジェフリー・ガンドラック氏は先週、バフェット氏による航空株の売却について、同氏が08年の金融危機後に銀行株を大きく買い増したのとは極めて対照的だと説明した。

バフェット氏はある企業に投資する際、長期的な価値はその業界全体の変化に左右されるという想定に基づいてきた。小売業界で言えば、有名ブランドの経営破綻が米衣料品チェーンのJクルーだけにとどまるとは考えにくい。倒産が増えれば銀行業界の経営リスクも高まり、銀行株の低迷も続くだろう。

弁護士を何人も抱えて政府に救済を急がせられない中小企業もこのままでは済まなそうだ。多くは経営不振に陥るに従い、より規模の大きい同業他社にのみ込まれてしまうに違いない。

技術分野のように新型コロナにも抵抗力があるかにみえる業界でも、企業によって差が出てくるだろう。米マイクロソフトは今回の危機下でも1~3月期で過去最高益を計上したが、米アップルのティム・クック最高経営責任者(CEO)は「経営環境はこれまでで最も厳しい」と述べた。

米企業には従来と異なるレベルの政治的リスクと共存していく覚悟も必要だ。その結果、業績予測を示すことも、今後の規制の在り方を見通すことも困難になる。技術を自国の発展に優位に利用しようとする技術国家主義が共和、民主両党内で台頭する一方で、一握りの大企業だけが市場を牛耳る事態への懸念も強まっているからだ。民主党大統領候補のバイデン前副大統領はこうした一部の企業による寡占問題を大統領選の争点に掲げている。

コロナ危機の中で業績を急拡大させているものの、今後新たな政治的リスクに直面する可能性があるという意味では、米アマゾン・ドット・コムは好例だろう。都市封鎖(ロックダウン)により多くの小売業の活動が制限される中で、同社は生活物資の調達に欠かせない存在となった。他方、倉庫の労働条件を批判した従業員を解雇したり、プライベート(PB)商品の開発に外部事業者の販売データを不正利用したとして反トラスト法(独占禁止法)の疑いが浮上したりして、同社への批判は一段と強まっている。

米ネット大手各社が危機を乗り越えて事業基盤をより盤石にするかもしれないが、結局は各国政府の規制や課税強化により様々な足かせをはめられる可能性はある。富の不公平な分配の是正や海外サプライチェーン(供給網)に依存するのはよくないといった自国重視の政策を主張する政治家の声が高まる中で、IT企業は格好の標的となる可能性も十分にある。

現時点では、FRBがあらゆる業種や企業を無制限に支え続けると信じられる場合のみ、S&P500連動型インデックスファンドへの投資は合理的判断と言えるのだろう。

だが、米国は消費者が家計の維持に必要な流動性を確保できない事態から、企業が経営破綻に追い込まれる事態へと悪化しつつある。それでもFRBがすべての企業を救済するかどうかは分からない。優良企業の株式を買って長期保有するのに慣れきった投資家にとって、米国株への投資は格段に難しい時代になった。

(10日付)

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