90s生まれミレニアル世代のメモ帳/備忘録

アメリカ東海岸の片隅から、読んだ記事や本で気になった箇所をメモするブログ。

GQ JAPAN: リモワは“思い”を運ぶ

 

たしかにファッション関連のアイテムで、10年以上にわたって使っていけるものはリモワのスーツケースくらいしかないかもしれません......

フィレンツェサンタ・マリア・ノヴェッラ駅から乗り込んだユーロスターは、ほぼ満席だった。予約した2等席は車両の中央付近にある。連結部の荷物スペースはいっぱいで、狭い通路を通ってトランクを席まで運ばなければならない。それなのに自分がいま手にしているトランクは、縦にして動かせない2輪のトローリーだ。

空港のチェックインカウンターでトランクを預けるときも油断ならない。なにせ本体だけで5キロ以上ある。エコノミークラスを利用する際には、注意しないとすぐに超過手荷物料金を支払うハメになる。

決して扱いやすいわけじゃない。持ち運びの機能だけで選ぶなら、もっと便利なものがあるだろう。けれども、長年にわたって愛用し続けているのは、リモワのアルミニウム製トランクが、唯一無二の存在だからだ。

以前、在籍していた編集部に、古いリモワのトランクが5つあった。海外撮影用として、編集部員の間で20年近く受け継がれてきたシロモノだ。いずれも表面のへこみやキズは半端じゃないし、おびただしい数のステッカーが貼ってあった。それがいよいよ廃棄処分されることになり、試しに誌上でチャリティオークションを企画して、出品してみることにした。
結果、5つすべてが予想外の高値で落札され、驚き、少し感動もした。だって、歴代の編集部員と苦楽をともにした、思い出がたくさん詰まったトランクが、いまもどこかの誰かと一緒に世界中を旅しているなんて、とっても素敵なことじゃないか。

歳月を経ることによって醸成される風格は、使い込まなければ出てこない。それが個人の所有物であれば、愛着もひとしおである。旅先でついた傷やへこみがそのときの思い出とともに味わいになり、自分だけのリモワになっていく。そうした過程を楽しめるものは、あるようでいてなかなかない。

思い返してみてほしい。ファッション関連のアイテムで、10年以上にわたって使っているものはあるだろうか。リモワが特別の存在であり続ける理由は、そんなところにあるんだと思う。

取材で訪れたバルセロナエル・プラット空港ターンテーブルの上で目にした大きなへこみ、ニューヨークのホテルで荷物を整理しようとして見つけたキズ、パリの石畳の上で、そしてミラノの地下鉄の階段を上るときにこすった跡など、数え出したらキリがない。でも、直後はガッカリしても、時間が経てば、それさえも愛しく思えてくるのだから、不思議としかいいようがない。

少し前に、リモワの3代目当主でプレジデント&CEOのディーター・モルシェックさんに話を聞く機会があった。モルシェックさんは、熟練の技を継承する職人たちがリモワの財産であるといい、メイド・イン・ジャーマニーの誇りを何度も口にした。

航空、機械、自動車など、工業製品の分野で世界をリードしてきたドイツ生まれのリモワが、航空機製造における黎明期の飛行機からヒントを得て、アルミニウム製トランクを誕生させたというエピソードは、決して偶然じゃない。精緻なものづくりへの情熱は、こうした土壌があって育まれてきたのだ。

リモワのアルミニウム製トランクには凛とした気品がある。長い歴史と揺るぎない価値観、そして完璧を目指して前に進み続ける革新の精神。ドイツの工業製品がものづくりの伝統を大切にしながらイノベーションを繰り返してきたように、リモワのトランクも進化し続ける。そう、今日もまた人々の大切な思いを運ぶために。

石井俊昭
1969年生まれ。青山学院大学卒業後、日之出出版アシェット婦人画報社(現ハースト婦人画報社)を経て、2000年にコンデナスト・ジャパン入社。『GQ JAPAN』編集部にてファッションディレクター、副編集長を務める。2014年に退社し、フリーランスとして雑誌、ウェブ、カタログ制作の編集、ライターを行う。

Source: https://gqjapan.jp/fashion/news/20150416/rimowa-carries-your-memory

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